CONTENTS
プロローグ
�第一章 女性都市へようこそ!
�挿絵1:むちむちメイドさんとの出会い
挿絵2:はじめまして、爆乳女領主様
挿絵3:えちえち湯浴み
�第二章 素敵なメイドさんのいる生活
�挿絵4:桃尻いっぱい、朝のお伽
挿絵5:エフィさんと初体験
�第三章 その馬車は淫らに揺れる
�挿絵6:ギルド長オリビア襲来!?
挿絵7:ぎっちりHな馬車の中
挿絵8:露出しすぎる店員さんズ
�第四章 お会計は快感とともに
�挿絵9:熟女店主のハード腰遣い
�第五章 異世界領主による、爆乳意思確認
�挿絵10:爆乳ガラスプレス
挿絵11:高ぶる三人の情欲
�書き下ろし番外編 脳筋メイドの目覚め
�挿絵12:はしたなく濡れる脳筋メイドさん
プロローグ
気づくと俺は、黒い壁に覆われた室内にいた。
「えっ……?」
慌てて周囲を確認すると、どうやら俺は座っているらしいことが分かった。
赤いふかふかの座面の椅子──というか三人がけくらいのベンチだろうか。その左右は黒塗りの壁に小さな窓。そこからは青い空が見え、明るい日差しが差し込んでいた。
「おはようございます」
と、いきなり正面から女性の声がする。
ぱっとそちらを見ると、白いシャツにグレーのスカート姿の美女が座っていた。
「うわぁっ!? 」
降って湧いたように見えた彼女に驚き、俺は椅子から転げ落ち──
「っと!」
──ることは無かった。 件 の彼女が、俺の腕を 掴 んでくれていたからだ。
「えっ……あっ……すみません……!」
急いで姿勢を立て直すと、女性は穏やかに 微笑 む。
「いえいえ。突然のことですからね。むしろ驚かせてしまって申し訳ございません」
肩ぐらいまでの 艶 のある黒髪に、ぱっちりとした垂れ目。 清 楚 なOLを思わせる彼女は立ち上がり、綺麗なお辞儀を見せた。
「コウイチさん、このたびは誠に申し訳ございません。私共の手違いで、 貴方 の人生は終わりを告げてしまいました」
「じ、人生が終わり……?」
「はい、貴方はもう亡くなってしまったんです」
……えっ!?
「な、亡くなったって……。お、俺がですか?」
いやいや、さっきまで俺は自宅にいて、楽しみにしていたゲーム『どきおさ3』をまさに始めようとしていたところだったはず。仕事で疲れてはいたけれど、さすがに死んじゃうようなことはないだろう。
と、思いながら身体を見下ろすと。
「な、なんだこれ!? 」
寝間着であるTシャツにハーフパンツ……それごと身体がうっすらと 透 き通っていたのだ。
慌てて肌の出ている部分を確認すると、そこもやっぱり透けていた。
「悪い夢かと思われるかもしれませんが、まずは事情を説明いたします。どうか落ち着いて聞いてください」
えっえっ、と慌てる俺に彼女はゆっくりと話を始めた。
「私は貴方の一生を担当している者です。一般的に言えば、『神様』というところでしょうか」
「か……神様、ですか……?」
すぐには信じられないと思いますが、と女性は苦笑いを浮かべた。そりゃあそうだ、いきなり神様だなんて言われて信じる人はいないだろう。
とはいえ今、俺の身体が透けているのは事実だ。
そして座っている感触や、肌に感じるやや 籠 もった空気。これらが現実のそれとそっくりに感じられているのも事実である。
神様を名乗る女性の独特な雰囲気も相まって、俺はこれが夢だと断じられない状態だった。
「まずは……コウイチさん、貴方はついさっきまで『どきどき☆おさわり店主3』というゲームを始めようとしていませんでしたか?」
そ、その通り。
店舗経営シミュレーションと、可愛らしい店員さんへのエッチな 悪 戯 や、いちゃラブエッチシーン。
この二つが売りのアダルトゲーム、『どきどき☆おさわり店主3』をまさに始めようとしていたはず……っていうか女性にそれをずばりと指摘されると恥ずかしいな……!
「コンビニのお仕事を終えた後でしたよね。明日はお休みを取っていらっしゃった。明後日からは正社員として働くことが決まっていました」
「え、ええ……」
そうそう、『どきおさ3』を遊びたくてわざわざバイトのシフトを空けたのだ。
俺がこくこくと 頷 くと、彼女は更に続ける。
「男子高校、工業大学と進学したコウイチさんは就職活動に失敗。コンビニでのお仕事に 就 かれました──」
美女の話は、俺自身の近況といえる内容から始まり、そのまま中学生時代、小学生時代と時をさかのぼっていく。
初恋が幼稚園の先生であったことや、限界までトイレを我慢したが玄関でお 漏 らししてしまい大号泣したこと。 密 かに好きだった子が仲の良い友人と付き合っていたと知って、三日三晩泣いたことなど……。
「ってなんで恥ずかしい記憶ばっかり!? 」
女性の口からそれらが明かされるのは大変居心地が悪いんですが……!
「まだまだありますよ?」
話は俺が覚えてすらいないほどの 些 細 なことや、誰にも言っていなかったちょっとした悩み、人生の様々な局面で感じた心情にまで及んだ。
そしてそれがほとんど物心つく前の頃にまでさかのぼった時、俺は不思議と納得していた。
多分この人が言う『俺の一生を担当』というのは本当なのだと。
「普通の人間ではない、と納得していただけました?」
「は、はい……」
ぎこちなく俺が頷くと、女神様はふわりと笑みを見せてくれた。
神様が、いわゆる閻魔様みたいな怖い見た目でなくてよかった。本物の神様は清楚なOLさんみたいだったよ、ともし伝えられたら皆安心するだろうか。
「あ、この姿ですか? コウイチさんは女性経験がありませんし、あまり緊張なさらない程度の見た目にしてきたつもりですが……いかがしょう?」
こ、心を読まれた!? さらっと童貞ということもバレている!
悲しいかな、二十八にもなって童貞なのは事実。いわゆる『魔法使い』一歩手前なのだ……。
「神ですしね、お考えは分かりますよ」
柔らかい表情を見せる女性に、俺は肩の力がすっと抜ける。
改めて周囲を見回すと、俺が今いるのは黒い艶のある壁に囲まれた空間であった。電車のボック
そして座っている感触や、肌に感じるやや 籠 もった空気。これらが現実のそれとそっくりに感じられているのも事実である。
神様を名乗る女性の独特な雰囲気も相まって、俺はこれが夢だと断じられない状態だった。
「まずは……コウイチさん、貴方はついさっきまで『どきどき☆おさわり店主3』というゲームを始めようとしていませんでしたか?」
そ、その通り。
店舗経営シミュレーションと、可愛らしい店員さんへのエッチな 悪 戯 や、いちゃラブエッチシーン。
この二つが売りのアダルトゲーム、『どきどき☆おさわり店主3』をまさに始めようとしていたはず……っていうか女性にそれをずばりと指摘されると恥ずかしいな……!
「コンビニのお仕事を終えた後でしたよね。明日はお休みを取っていらっしゃった。明後日からは正社員として働くことが決まっていました」
「え、ええ……」
そうそう、『どきおさ3』を遊びたくてわざわざバイトのシフトを空けたのだ。
俺がこくこくと 頷 くと、彼女は更に続ける。
「男子高校、工業大学と進学したコウイチさんは就職活動に失敗。コンビニでのお仕事に 就 かれました──」
美女の話は、俺自身の近況といえる内容から始まり、そのまま中学生時代、小学生時代と時をさかのぼっていく。
初恋が幼稚園の先生であったことや、限界までトイレを我慢したが玄関でお 漏 らししてしまい大号泣したこと。 密 かに好きだった子が仲の良い友人と付き合っていたと知って、三日三晩泣いたことなど……。
「ってなんで恥ずかしい記憶ばっかり!? 」
女性の口からそれらが明かされるのは大変居心地が悪いんですが……!
「まだまだありますよ?」
話は俺が覚えてすらいないほどの 些 細 なことや、誰にも言っていなかったちょっとした悩み、人生の様々な局面で感じた心情にまで及んだ。
そしてそれがほとんど物心つく前の頃にまでさかのぼった時、俺は不思議と納得していた。
多分この人が言う『俺の一生を担当』というのは本当なのだと。
「普通の人間ではない、と納得していただけました?」
「は、はい……」
ぎこちなく俺が頷くと、女神様はふわりと笑みを見せてくれた。
神様が、いわゆる閻魔様みたいな怖い見た目でなくてよかった。本物の神様は清楚なOLさんみたいだったよ、ともし伝えられたら皆安心するだろうか。
「あ、この姿ですか? コウイチさんは女性経験がありませんし、あまり緊張なさらない程度の見た目にしてきたつもりですが……いかがしょう?」
こ、心を読まれた!? さらっと童貞ということもバレている!
悲しいかな、二十八にもなって童貞なのは事実。いわゆる『魔法使い』一歩手前なのだ……。
「神ですしね、お考えは分かりますよ」
柔らかい表情を見せる女性に、俺は肩の力がすっと抜ける。
改めて周囲を見回すと、俺が今いるのは黒い艶のある壁に囲まれた空間であった。電車のボック
ス席のような構造で、二つの幅が広い座席が向き合っているような感じだ。俺は神様の正面に座っているので、それなりに距離も近い。
これでスーパーモデルのような女性とか、極道の組長みたいな男性が現れてしまったら、たしかに落ち着いて居られなかっただろう……。
「それで、あの……俺どうやって死んじゃったんですか?」
「ゲームを始めるために、マウスをクリックしたことで静電気が発生。その後お使いの有線マウスが発火してしまいました。それが有線をたどって……」
大きな火災になって、焼け死んでしまったらしい。我ながらなんと不運な……。
でも、それなら家族は大丈夫だったのだろうか。
「ご両親はご無事です。全焼火災となりましたが、貴方の死を乗り越え幸せに一生を送る予定になっています」
「な、なるほど……そんな予定が……」
神様が『予定』と言うのなら大丈夫なのだろう。とりあえず家族が無事であること、その後も健やかに暮らしていけそうなことに俺は胸をなでおろした。
みんな俺の死を悲しんでくれて、お葬式もしてくれたらしい。
何の取り柄もない男だったけど、両親は俺を 急 かしたり非難したりすることなく、温かく見守ってくれていたと思う。親孝行できなかったのはごめんよ……。
「いいえ。コウイチさんには『真面目』という大きな取り柄があったじゃないですか」
「いやいや……」
『真面目』……そのあまり嬉しくない特徴を神様にまで言われてしまうとは思わず、俺はつい苦笑してしまう。
なんのことはない。何かのリーダーになったり、会話の中心になったり……そういう立派な力が俺にはなかったのだ。
となればやれることは与えられたことを粛々とやるだけ。そんな面白みの無い俺を指して『真面目』というところだろう。
「結局良いように使われてしまったってとこかなあ……」
できることが少ない自覚があっただけに、頼られたりお願いされたりすることが嬉しかった。
コンビニでは休みがちな学生や、主婦のパートさんの代役をよくやった。実働十二時間の二十連勤なんていうのもさほど珍しくなく、転職活動の時間も体力もなかなか残らなかった。
そんな中ようやく正社員になれたのに。
バイトも童貞も卒業は叶わぬまま、手違いで死んでしまうとは。
最後までぱっとしない人生だった──と悲しい総括を出そうとした俺の思考を遮ったのは。
「いいえっ! そんな風にコウイチさんの人生を終わらせはいたしませんっ!」
「わっ!? 」
ぐいっと身を乗りだした女神様であった。
「コウイチさんは一生懸命に生きていました。本来なら正社員になってからしっかりと道が開けるはずだったのです」
ふんす、と鼻息荒く彼女は続ける。
「それを担当外のクソ女神が、ぶち壊してくれました……! 本当にお 詫 びのしようもありません……! 当然神格を剥奪し、ひどい目に 遭 わせてやりましたが」
どうも手違いを起こしてしまったのは彼女ではない女神様らしい。
言葉の 端 々 に強い怒り──と若干の闇──を 滲 ませながら、俺の境遇について憤ってくれる女神様を見て、俺はなんだか胸が温かくなった。
「これらの状況を 鑑 みて、コウイチさんには『継承転生』の権利が付与されることになりました」
「け、けいしょうてんせい……?」
要は生まれ変わり、というようなものだそうだ。
通常の死ならこのまま胎児にまで戻り、新たな生を 享 ける。
しかし、今回は手違いのお詫びとして特別に、知識や意識を引き継いで、別の世界に生まれ変わる権利をもらえたらしい。
「『細かな差異』はありますが、遊ばれようとしていたゲームに近い世界がありまして。そこの貴族のご子息として転生されるのはいかがかな、と」
「ど、どきおさ3の世界ですか……!? 」
「ええ。コウイチさんの元いた世界からすると、ちょっとファンタジーな世界ですね」
『どきおさ』シリーズ三作目となる『どきおさ3』は、舞台を現代からファンタジー世界へ移したもの。石畳にレンガ造りの街はもちろん、竜や獣人なんかも公式プレイ動画に出てきたはず。
経営できるお店も武器屋やアイテム屋、ギルドまである異色のものだったと思う。シリーズ通じてファンの俺も最初は面食らったものだ。
「争いや戦いの恐れはありません。当然魔王と戦う勇者になれ、みたいな話もございません」
「そ、そうなんですか……よかった……!」
戦いとかはないのか……それは助かるなあ。俺のような地味な男からすれば、冒険者になって 八 面 六 臂 の大活躍は見るだけで充分だし。
「ただし……一点ご留意いただかなくてはなりません」
非常に申し訳なさそうな表情で、美人な神様は続ける。
「コウイチさんには神の決まりで魔法の能力をお授けできない、ということです」
どうやら転生先として紹介された世界には、魔法の概念があるそうだ。しかし転生の際に魔法の能力をもらえるのは『三十歳を過ぎた童貞』だけ……。
そして俺は今二十八歳、ギリギリ魔法使いにはなれないらしい。
「だ、大丈夫でしょうか。みんなが使える中、俺だけが使えないとなると……」
俺が心配になって聞くと。
「不安はわかります。けれど誰もが使える世界というわけではありませんし、コウイチさんならきっといい方向に進むと思います」
美人な神様は強い確信を感じさせる声色で話す。
俺ならいい方向に進むっていうのは、ちょっと買いかぶりすぎじゃないかなぁ……。
「コウイチさん、どうされますか? もちろん断っていただいてもよろしいのですが……」
継承を断った場合は、元の世界に記憶を失って転生するそうだ。
「……転生……」
まさか死んだ後になってこんなことが起きるとは思わなかった。だからだろうか、俺は自身の『ぱっとしなかった人生』を自然と振り返り、一つの考えが浮かんでいた。
それは……そんな人生を送ることになった最大要因は俺自身にあったのではないか、ということだ。
積極性に欠け、『安易な普通』や『なんとなくの安心』を選び続けたのは、他ならぬ俺自身であったのだから……。
しかし今、そんな俺に継承転生という選択肢が与えられた。これは『普通』でも『安心』でも無い方に飛び込んでみるチャンスかもしれない。
そこまで考えた時、俺の口は勝手に動いていた。
「継承転生をお願いします……!」
美人な神様が目の前にいたことで、俺のちっぽけな見栄にも背中を押してもらったのだと思う。
けれど俺は初めて、安心の外側へ進んだような気がしていた。
「コウイチさんの心意気、確かに承りました」
俺の言葉に女神様は嬉しそうに頷いてくれる。心持ちも 汲 み取ってくれたらしいその表情に、俺は元気づけられた。
すると、急に部屋が揺れ始めた。なんだか電車に乗っている時のような、断続的な揺れ方だ。
「それではご用意ができました。最初は世界の違いに戸惑うとは思いますが、どうか第二の生を楽しんでいただければ」
女神様がそう言うと、今度はぱかっぱかっと馬の足音のようなものも聞こえ始める。
窓の外から入ってくる日差しは少しずつ強くなり、車輪が回るような音も耳に入ってきた。
「こ、これは……?」
「コウイチさんの転生が始まったのです。貴族のご子息が馬車の中で発作を起こして人生を終えるのですが、そこを引き継ぐ形でコウイチさんの魂が入ります」
「ほ、発作……!? 」
「あ、でも安心してください。魔法を授けられない代わりに、病気とは無縁の身体を勝ち取りましたから! コウイチさんが入り次第、身体もそのように書き換わります。ちょっと元気すぎるかもしれませんが……きっと楽しめるかと!」
そういえば貴族の子息として転生するって言っていたな……。しきたりとか難しくないといいんだけど……。
「ではコウイチさん、これにてお別れとなります。今のコウイチさんのお気持ちを忘れなければ、きっと素晴らしい人生が開けますよ」
応援していますからね、と彼女が微笑みを見せた途端。
馬の歩く音と、車輪の音が急に大きくなった。揺れも急速にリアルになっていく。
「……っ!」
続いて唐突に世界が光り、強烈な 眩 しさに目がくらむ。思わず 瞼 を閉じると、そのまま俺の意識は温かい闇に溶けていったのだった。
──ッ──……──スト──さ──
「アリスト様っ!」
肩に感じる衝撃と、男性の大きな声に驚き俺は急速に覚醒していく。
「んん……」
ゆっくりと眼を開けると、そこには少しホッとしたような表情を浮かべる老紳士がいた。
白髪に白ひげ、黒を基調としたかっちりとした服装の彼はまるで執事のようだ。
「良かった……! 急に苦しそうになさって……大丈夫でしょうか?」
「あ……は、はい」
転生した……のかな?
状況が分からないままに、ひとまず俺は曖昧に頷いてみる。
身体を見下ろすと、上下黒のスーツのようなものが目に入った。衣装には金色の 刺繍 が入れられており手触りもいい。おそらく高価なものなのだろう。
「……そっか」
こっそり言葉を漏らす。どうやら無事に転生ができたらしく、もう身体も透けていない。
声が前の俺より随分と高いし、身体つきも 華 奢 だ。もしかしたら現代の年齢より若くなったのかもしれない。鏡みたいなものがないから確認できないけれど……。
ここは黒塗りの壁に、赤い座面のソファが向き合って作り付けられたキャリッジ──四輪タイプの馬車──の中らしい。女神様と話をしていた場所ととても良く似ている。
違いは左右が大きな窓のついた両開きの扉になっていることと、進行方向にも小窓が開いていることだ。小窓の向こうに見えるのは 御 者 さんだろうか……黒いマントを着た人が手綱を握っていることが分かる。
扉の窓からは開けた林と青空が見え、明るい木漏れ日が馬車の中にも入ってきていた。
「念のため、ウィメについたら医者に見てもらいましょうか?」
「あ、ああいや……大丈夫です」
神様が丈夫な身体にしてくれた、と言っていたしね。身体の調子は前より良いくらいだ。
それより俺は誰で、これからどこへ行くんだろう。考えてみればその辺り、女神様は全然教えてくれなかったなあ……。
揺れる馬車の中には老紳士と俺だけ、となればひとまず彼に色々聞いてみるとしようか。
「あの……ウィメ、というのは?」
俺の言葉に老紳士は驚いたような顔をした。
「アリスト様、ウィメにご興味が湧きましたか?」
「え、ええ。まあ」
ご興味というか、なんにも知らないんです!
とは 流石 に言えないが、分かったこともある。
起こされた時にも聞いた『アリスト』というのが俺の名前らしいことだ。それに『様』とついているし、高級そうな服。貴族の子息というのは本当みたいだ。
神様の説明通りであったことに胸をなでおろしていると、ではご説明いたします、と執事風の彼は嬉しそうに説明を始めてくれた。
「ジェント共和国にある『女性都市』の中の一つ、それがウィメ自治領でございます」
なるほど、ここはジェント共和国というらしい。
でも『女性都市』ってなんだろう、『どきおさ』シリーズにはそんなの無かったような。
「じょ、女性都市って?」
分からないことはすぐ聞いてしまったほうがいいはず。俺は仕事で分からないことを放置して大失敗したことを思い出しつつ、とにかく聞いてみた。
「ああ、これは大変な失礼を……! アリスト様は女性都市へ 赴 かれるのは初めてのことでしたね。少し退屈なお話になりますが、そこからご説明をさせていただいても?」
「ぜ、是非お願いします!」
勢い込む俺に、彼は嬉しそうな笑みを見せ、口を開いた。
「アリスト様がお生まれになった首都メンズは、ほぼ男性だけの都市だったと思います」
そ、そうなのか……すごいとこだな……。
「ですがそれは首都だけのお話でして。ご存知の通りジェント共和国の九割以上は女性です」
「……っ!? 」
いやいや、それは全然ご存知じゃないです!
俺は出してしまいそうだった声を必死で飲み込み、誤魔化した。
彼の口調から、この常識を知らない、というのは流石にまずそうだと思ったからだ。
幸運なことに、老紳士は俺の困惑と驚きには気づかず、そのまま話を続けてくれる。
「そして、首都メンズに滞在できるのは一部の優秀な女性達だけ。ですからそれ以外の女性達は首都から距離のある地域へ住むのです」
そういった地域にある都市のことを『女性都市』と呼ぶのだそうだ。
「一部の優秀な……というのは?」
頭が良いとか、武芸に秀でているとか、そういうことだろうか。
俺が興味本位で聞くと執事っぽい彼は目を丸くした後、 辛 そうな表情を浮かべる。
あ、あれ……気まずい話なのかな?
「アリスト様には大変申し上げにくいのですが……魔法の素養をお持ちの女性、ということでございます」
「あ、ああ……なるほど……」
つまり、この世界では魔法が使える人は優遇されているってことらしい。
で、二十八歳で転生した俺は魔法の素養はもらえなかった。そして察するに、アリストという子息も魔法の素養が無かったようだ。
神様はそういった事情を加味して、魔法が使えない俺に丁度いい彼を転生先にしたってとこだろう。
「魔法が使えない男性はやっぱり少ないんですか?」
うっ……と言葉につまる彼。
「世間知らずでして……気分を悪くしたりしないので教えてもらえませんか?」
言いづらそうな彼に俺はもう少し言葉を付け足してみた。
すると彼は沈痛な 面 持 ちで頷く。
「ほとんどいらっしゃらない、かと存じます」
なるほど……。
あくまでも予想だけど、貴族様ってきっと魔法の素養が無いと駄目なんじゃないだろうか。
貴族の息子なのに魔法が使えないアリストくんは、いろいろと都合が悪いから首都じゃないどこかへ厄介払いされる……みたいな。だとしたらアリストくん、なかなかに不遇だったのかもしれない。
そして俺にとっても、これはいきなり左遷みたいなものだ。神様が良い方向にいくって言っていたけれど本当かなぁ……。
とはいえ、選んだのは俺自身だ。難しい境遇かもしれないが、ここは前向きにいかなければ前の人生と同じだ。このまま世間知らず設定を 活 かして、今後のことも色々聞いてみよう。
「え、ええと。それで俺はウィメではどう振る舞えばいいんでしょうか。それとお名前をもう一度 伺 っても?」
何しに行くの? とは流石に聞きづらく、ちょっとぼかして聞いてみる。ついでにお名前も教え
てもらっちゃおう。
「こ、これは大変失礼いたしました。私はウィメ自治領領主イルゼの執事、ニュートでございます。アリスト様の道中のご案内を仰せつかって参りました」
まずは改めて自己紹介をしてくれた。
ウィメ自治領領主……つまり今向かっているところの偉い人の執事さんらしい。そんな人が迎えにきてくれているなんて、随分と良い待遇な気がする。
「アリスト様がこのたび行われる『女性都市への研究留学』というのは、ご存知の通り前例の無いことです。私はもちろん、ウィメ自治領をあげて可能な限りお力 添 えいたします」
前例が無い……なるほど、『研究留学』というのは左遷の表向きの名目ってことなんだな。
「あ、えっと……こちらこそ、よろしくお願いいたします」
俺は丁寧に色々と話をしてくれるニュートさんに感謝しつつ、軽く握手をさせていただく。
「もったいないお言葉です。ご不便があればなんなりとお申し付けください」
微笑んで応じてくれた初老の紳士の手はとても温かかった。
「それと、実は今回『 外 遊 訪 問 』のご公務も兼ねておりまして。お辛いとは思いますが、到着後は領民達に御慈悲をお願いいたします」
「が、がいゆうほうもん……?」
ご公務、ということはなんらかの仕事だろうか。『御慈悲』とか言ってたけれど、一体どんな仕事なんだろう……?
「ええと……具体的にどういうことをすれば?」
「馬車が大通りを進みます。車内から女達に顔をお見せください。その……もしよろしければ手なども振っていただければ……」
と、執事さんは懇願するような表情を見せる。まるで世界を救ってくれと頼むかのような深刻な顔だ。
え、いや……ただ馬車の中から女性に手を振るだけだよね?
「えっと、それだけ……ですか? それくらいなら問題ありませんが……」
俺が頷いてみせると、ニュートさんはぱぁっと表情を明るくした。
「よろしいのですか!? 」
な、なんだろう……『手を振る』が何か危険なことの隠語なのかもしれない。
あまりの様子にかえって不安がこみ上げてきたものの、ニュートさんの明るい表情を前に、やっぱり無理です、などとはとても言えなかった。
「ありがとうございます……! その後は我が領主イルゼとの会談となります」
なるほど、その後偉い人に会うって流れなんだな。
不安は感じるけれど、何事も郷に入れば郷に従え、俺はしっかりと頷いてみせた。
「わかりました。精一杯やらせていただきます」
与えられた仕事の手を抜いたら、前世以下になってしまうしね。
「なんとお心強いお言葉……! 領民達も大層喜びます!」
「あ、あはは。頑張ります……」
ほ、ほんとに手を振るだけ、だよね……?